研究紹介

研究紹介

研究紹介

日本語版Trail Making Test、Stroop Test、
California Verbal Learning Test(CVLT-II)の標準化研究

実施責任者:教授 吉村 玲児

双極性障害(一般的には躁うつ病と呼ばれる)は躁状態、うつ状態を繰り返し、社会適応に多大な支障を来す代表的な精神疾患です。近年、注意、記憶、言語流暢性、遂行機能と言った情報処理に関わる神経認知機能の低下が気分が安定した寛解状態でも存在し、日常生活を適切に営む社会生活機能に影響することが分かってきました。国際双極性障害学会は双極性障害患者の認知機能障害を包括的に評価するためにInternational Society for Bipolar Disorders Battery for Assessment of Neurocognition (以下ISBD-BANC)と呼ばれる9つの心理検査を発表しています。ISBD-BANCを用いて患者さんの認知機能障害を評価することは大変有用ですが、ISBD-BANCを構成する3検査(Trail Making Test、California Verbal Learning Test、Stroop Test)については日本人の健常者のデータによる標準値が存在しません。そのため、現在は、ISBD-BANCを施行しても患者での重症度を算出できない状態です。本研究の目的は、Trail Making Test、California Verbal Learning Test、Stroop Testの3検査について、十分な例数の健常者で施行して標準値作成のためのデータを得ることです。それにより、ISBD-BANCを用いた患者さんの評価や、新規薬剤の治験などの様々な臨床研究を実施可能にすることを目指すことです。

糖尿病がうつ病の治療に及ぼす影響

実施責任者:助教 星川 大

最近日本では、うつ病、糖尿病にかかる人が増えており、今後さらに増加することが予想されます。これらの病気は健康寿命、生活の質、仕事に大きな影響をおよぼします。糖尿病では、うつ病の合併が高く、うつ病でも糖尿病の合併が多いことが知られています。うつ病は第3の糖尿病ともいわれています。これはうつ病と糖尿病には共通した原因が存在している可能性があります。さらには、これらの病気の合併は両疾患をさらに悪化させることに繋がります。今回の研究では、血液中の幾つかの物質の測定や頭部MRI検査から、うつ病と糖尿病で共通する病気の原因を明らかにします。この研究はうつ病で糖尿病を合併した場合の治療法の確立に役立ちます。

気分状態の安定した双極性障害患者の認知機能改善に対する
Lurasidone 併用療法(ELICE-BD)の有効性評価のための
6週間のランダム化二重盲検プラセボ対照多施設試験

実施責任者:教授 吉村 玲児

双極性障害(躁うつ病)は気分の浮き沈みが激しくなるという病気です。このため、日常生活や社会適応がうまくいかなくなることもあります。現在、その治療法として薬物投与などが実施されますが、主に気分の状態の改善が目標となっております。一方、患者さんの社会復帰には、記憶、注意、処理速度など、いわゆる認知機能の改善が重要とされます。しかし、双極性障害の認知機能改善を目的とした薬物治療法については、これまでほとんど調べられていません。
本研究は、lurasidone(ルラシドン)という薬物を服用していただき、認知機能や関連する症状を評価することで、双極性障害の治療法の向上に役立てることを目的としています。なお、ルラシドンはわが国では未承認の非定型抗精神病薬ですが、米国およびカナダで双極性障害I型に伴ううつ病エピソードに対して承認が得られており、安全性が確認されている薬剤です。先にカナダで行われた少数の双極性障害患者に参加していただいたパイロット研究では、ルラシドンによる認知機能の改善効果が認められています。

うつ病の病態や重症度を反映する新規バイオマーカーの探索

実施責任者:助教 関 一誠

今日、国策としてストレスチェック制度が導入されるなど、うつ病の罹患数、うつ病による経済損失などの増加に伴い、うつ病に対する関心が日々高まっています。しかし、うつ病の診断は、診断基準に照らして臨床症状のみから判断されるため、その診断精度についてはかねてより問題視する声が上がっています。そして、このことが、うつ病の治療や研究の足枷になっているという現状があります。
本研究は、遺伝子の転写後調節を行う最も重要な調節因子であると考えられているmiRNAと、うつ病の病態や重症度との関連を明らかにすることが目的です。
miRNAは20前後の少数の塩基から成るRNAであり、遺伝子の発現を調節する機能などを備えています。近年、miRNAは特定のがん、また多数の病気やウイルス感染において重要な役割を担うことが報告されています。これらの結果からmiRNAが今後病気の診断や予後の指標となる可能性や、miRNAを用いた遺伝子治療の可能性を示唆されています。
miRNAは、精神科領域においても診断バイオマーカーや核酸医薬による治療開発など、将来の成長発展が最も期待されている先端的な分子のひとつです。miRNAに、これまで客観性に乏しかったうつ病の診断に有用なバイオマーカーとしての価値が見出されれば、うつ病の誤診を減らし、早期発見、早期治療につながる可能性が考えられます。また、このことは、うつ病で苦しむ患者さんの社会的・経済的不利益を減じ、ひいては医療費の削減につながる可能性も持つものと考えられます。

電気痙攣療法後の薬物療法戦略と再発予測因子の検証

実施責任者:助教 富永 裕崇

うつ病患者さんの薬物療法にはまずは抗うつ薬が用いられますが、薬物療法を行っても効果が不十分な患者が約1/3存在し、2種類の抗うつ薬で改善せず、3種類目で効果が得られる患者は1割程度と極端に低下します(Rush et al, 2006)。このような患者さんを治療抵抗性といい薬物療法以外の治療選択肢として電気痙攣療法があります。しかし、電気痙攣療法は急性期においては7割の患者さんで効果が得られる有効性の高い治療法であると言えますが、効果が得られても6か月以内に6割が再発する(Moksnes, 2011)ことが重要な課題です。本研究ではうつ病患者さんの電気痙攣療法後の再発予防効果の高い薬物療法を確立し、薬理学的な戦略を明らかとすることまた再発関連因子の探索を行うことを目的とします。本研究によって、電気痙攣療法後の再発という課題に対する効果的な薬物療法の確立と再発予測の観点からの個別化医療の確立に繋がると考えます。

統合失調症の臨床症状とキヌレニン経路との関連についての研究

実施責任者:教授 吉村 玲児

統合失調症の有病率は約1%と頻度の高い疾患です。統合失調症の発症原因として、ドーパミン(DA)神経伝達亢進仮説が有名です。これは統合失調症では脳内のDA分泌が過剰となりDA神経伝達が亢進しているというものです。実際の治療でもDA受容体を阻害する抗精神病薬を使用します。しかし、DA神経亢進のみでは統合失調症の病態は説明できません。最近の研究では統合失調症ではグルタミン酸神経伝達が低下しており、それが統合失調症の認知機能障害や陰性症状と関連すると考えられています。
さらに統合失調症のグルタミン酸伝達機能低下にはキヌレニン経路が関与していると言われています。また、炎症性サイトカインのインターロイキンβ(IL-β)やインターロイキン6(IL-6)がキヌレニン経路への影響を与える可能性もあります。
本研究の意義は統合失調症で認知障害や陰性症状が出現する病態を解明し更には新規薬物の創薬に貢献すると思われます。最終的には統合失調症で苦しむ患者さんの社会的復帰に貢献する可能性があります。

休職中の気分障害勤労者への集団精神療法の効果

実施責任者:助教 手錢 宏文

近年、うつ状態によって休業される方が増加しており、さらに再休職が多いことが複数報告されています(Endo et al., 2013;Knudsen et al., 2013;Koopmans et al., 2011)。また、復職から1年以内の再休職が多く、通常治療のみでは継続的な社会復帰には至らないことが指摘されています(堀ら,2013;Sado et al., 2014)。そこでリワーク活動が全国で盛んにおこなわれ、その成果が報告されています。通常、リワーク活動はデイケア活動の一貫として週5日間で認知行動療法、ロールプレイ、自己分析、オフィスワーク、運動などを実施している施設が多いですが、その他、実施形態や頻度が異なる施設もあり、復職支援に対する効果や要因は明らかになっていません。
そこで、我々は、復職の準備段階から通常勤務が可能となるまでの期間に、通常の外来診療に加えて、週1回120分間の集団精神療法を実施し、定期的な評価を実施しながら、うつ状態からの復職を目指す方の機能改善、復職に至るまでの期間短縮、復職後の再発予防にもたらす効果や要因を検証します。

就労中の双極性障害および統合失調症患者の運転技能検討

実施責任者:助教 小西 勇輝

本研究は名古屋大学精神科との共同研究として実施します。 双極性障害および統合失調症という疾病は、回復期においては社会活動性が高いにもかかわらず、再発率が高く、再発の予防が治療の要となります。中でも、気分安定薬を中心とした薬物による治療が再発の予防にとって効果があると証明され、買い物や就労などの社会生活を送りながらも継続した服薬が欠かせません。一方で、治療に使用される向精神薬の添付文書では、服薬中の運転中止あるいは運転注意が求められており、本来、恩恵があるはずの薬剤が患者さんの社会生活を制限しているのが現状です。科学的根拠に基づいた規制や情報提供が望まれますが、とりわけ双極性障害と統合失調症およびその治療薬が自動車運転に与える影響に関する科学的根拠は国内外ともに見当たりません。一律に規制される現状は、患者さんの生活の質を低下させ、社会参画を遠ざけており、個人の権利と公共の安全性を鑑みた科学的検証が課題となっています。本研究の目的は、双極性障害および統合失調症の患者さんの自動車運転技能の実態を調査し、どのような要因が自動車の運転技能に影響するかを明らかにし、気分安定薬等の治療薬の種類によって運転技能に異なる影響を与えるかを確認することです。本研究は、学術的意義があるばかりか、科学的根拠に基づいて、個人の権利と公共の安全の両立を実現する社会的意義がありうます。自動車運転を考慮した薬物療法の適正化にも繋がると考えています。