教授あいさつ
Reiji Yoshimura
教授 吉村 玲児
精神医学は裾の広い学問。
興味のある方が我々の仲間に加わってくれることを。
初代教授阿部和彦先生がその礎を築かれ、2代目教授中村純先生が発展させた産業医科大学精神医学教室を現在主催いたしております。
わたくしの頃は、医師国家試験に合格するとすぐに精神科研修が開始となりました。今のように内科、外科、救急科などをローテイトする期間はありませんでした。若い先生方は身体的医学の基礎知識をしっかり習得しているので頼もしい限りです。一方で、わたくしの精神科研修時代の方がよかった(単に自分が思っているだけかも知れませんが)ことも確実にあったと思います。わたくしは、それらのことのほんの少しでも若い先生たちに伝えることができればと願う次第です。
わたしは最初の2年間は主に病棟の患者さんを受け持ち一生懸命に診察しました。朝8時半に病棟に入ると5時半過ぎまではずっと病棟で患者さんと過ごしました。毎日のレクリエーションの担当も研修医の役目でしたので、患者さんたちと一緒に、大学のグラウンドや体育館でソフトボールやバドミントンなどもしました。他科の医師からみると、精神科医は何をしているんだと思われたことでしょう。しかし、患者さんとの長い関わりを通じて患者さんが普段病棟では見せる事のない、生き生きとした表情や笑顔、息遣いを知ることが出来ました。これらは、「この1週間のうちで、気分が沈み、楽しめないと感じたことがありましたか?」といった無味乾燥な質問からは、決してうかがい知ることはできません。患者さんたちと(自分が主治医でない患者さんとも)病棟やレクリエーションの場で他愛のない話を沢山いたしました。「何を知りたくて、何が目的でそのような話をしたのか?」と問われると、わたしは明確に答えることはできません。しかし、このような関わりや会話を通して、患者さんを広く深く知ることができたと思います。そのような事ができた時代であったのかも知れませんが。
精神科評価バッテリー得点をつけて、治療ガイドラインに沿った薬物を処方することだけでは精神医学の実践はできません。もちろん、精神科評価バッテリー、治療ガイドラインもエビデンス精神医療は重要です。これらは精神科医として当然習得すべき基本事項です。しかし、わたしたちが毎日対峙する患者さんにそれらをどのように応用していくかは、その患者さんの全体像をどのように主治医が描くかにかかっています。完全に患者像を模写することは不可能でしょうが、より近似した像を描くためには、主治医の経験が物を言います。一人でも多くの患者さんを診て経験したもの勝ちです。精神医学は裾の広い学問です。どのような領域あれ精神科に興味のある方が我々の仲間に加わってくれることを楽しみにしています。
わたくしの
産業医科大学精神医学教室への想い
産業医科大学精神医学教室は行動科学および社会科学的手法により精神医学を実践いたします。精神医学の実践や経験は、広く産業医学の分野に応用が可能です。現在の先生たちは、皆さん臨床を一生懸命実践してくれています。とても素晴らしいことです。身体や感染症への配慮もしっかりできており頼もしい限りです。日々の臨床実践で感じたことの中から自分自身が疑問や興味を持ったことを自分の専門分野や研究テーマとしてくれればと強く想います。骨太で質の高い研究に一緒に挑戦いたしましょう。